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連載

本に遇う 第235話

ねじれた国に生きて
河谷 史夫

2019年7月号


『おしん』を見ている。一九六一年に始まったNHK朝の連続テレビ小説が、今年百作を数える記念とかで再放送中だ。八三年四月から一年続いた。視聴率が最高六二・九%、平均で五二・六%という金字塔ドラマであった。
 しかし初出のころは社会部の「花の遊軍」で、取材と称してもっぱら「遊」に重心をかけた夜回りをしていたから朝は夢の中だった。その後の再放送も知らない。今回はじっくり見ている。要するに時間だけはあるのである。
 出羽の国山形は最上川上流の、大根めしに象徴される極貧小作農の娘が、戦前から戦後を愚直に生き抜き、年商何億というスーパー・マーケットの創業者になる一代記である。少女時代の小林綾子が十代で田中裕子に代わり東京へ出て髪結いとして自活、結婚相手に出会う。この先はまだ長い。
 アジアから中東各国でも評判で、「オシンドローム」と言われたというが、新聞の元同僚でニューデリーの特派員をした男の話が傑作だ。インドは例の階級制だから、仕事の中身に従って担当が違う。助手、コック、運転手、洗濯係、床掃除係、庭師、門番(朝、夕)、生ごみ収集係と総勢九人にかしずかれた・・・