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連載

皇室の風 第136話

夜の祭と浄闇
岩井 克己

2019年12月号

 大嘗祭が十一月十四日夜から翌未明にかけて行われ、一連の即位儀式が事実上終わった。
「毎年の先帝陛下の新嘗祭で身近に控えてこられたとはいえ、初めて自ら神饌親供をなさり聖上も大変だったでしょう。皇后陛下もお出ましになられて本当によかった」
 二十九年前に平成の大嘗祭に奉仕し、今回も経験者として手伝った掌典職関係者は「ほっとしました」と胸をなでおろしていた。
「ただ、前回以上に柴垣が外周まで低く建てられて中が丸見え状態だったことや、悠紀殿・主基殿などの茅葺き屋根が経費節減のため板葺きとなって伝統が失われたことは残念でした。伝統技術の保存の観点からでも維持してもらいたかった」
 二十九年前、筆者は参列者九百人の最後尾の席で「現場取材」した。天皇が潔斎所「廻立殿」から悠紀殿へと廊下を進む行列も、神饌行立の采女らの列も全く見えず、奏楽もほとんど聞こえなかった。暗闇のなか柴垣の奥の様子は想像するしかなかった。ただ、この時に初めてカメラが行列のみ撮影を許され、ぼやけてはいたが、その画像は後から見た。私的な皇室行事なのに「一世一度」だからと公費支出したため、一部・・・