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政治

憲法学界が突く「安倍改憲」の欠陥

東大本流に生まれた「九条抜本改正」論

2020年1月号

 憲法の「教科書」と言われる芦部信喜著『憲法』第七版の「はしがき」が、自由民主党の改憲勢力を戸惑わせている。総理大臣・安倍晋三が憲法九条改正の必要性を訴える際に繰り返してきた「憲法学者の多くが自衛隊は違憲と唱える状況を変える」との論法を無意味にし、護憲派の側から抜本改正を求めているようにも見えるからだ。「お試し改憲」で十分だという安易で不誠実な安倍の姿勢に痛撃を加えたとも言え、護憲派学者たちの「変心」は、安倍の追い風になるどころか、その憲法観の浅薄さを浮き彫りにしている。

自民党九条改正案は情緒的

 同書の四年ぶりの改訂版が岩波書店から刊行されたのは、二〇一九年三月のことだ。当初は注目されなかったが、自民党憲法改正推進本部や衆議院憲法審査会のメンバーがその内容を知るにつれ、静かな波紋が広がっていった。
 同書の「はしがき」は、一九九九年に芦部が亡くなって以降、第三版から弟子の東京大学名誉教授・高橋和之が執筆している。第七版の冒頭には「どう扱うべきか最後まで悩んだ問題」として「憲法九条の補訂」があった・・・