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連載

現代史の言霊  第24話

四月の潰走 1979年( 在イラン米大使館、人質救出失敗)
伊熊 幹雄

2020年4月号

 一九七九年
《生きているだけで幸運なんだ》

アリ・ハメネイ師(イラン最高指導者)

 イランの南ホラサン州は、アフガニスタンと接する、ユーラシア大陸の奥深くにある。大半が人口希薄な砂漠である。
 四十年前の一九八〇年三月、米中央情報局(CIA)保有の三人乗り小型双発機が一機、滑走路もない砂漠にふわりと降り立った。
 世界の関心事は、首都テヘランで続いていた米大使館人質事件だった。機が降り立つ四カ月前の七九年十一月、学生たちが米大使館に侵入して、五十人以上の大使館職員を人質にとり、籠城を始めた。
 ジミー・カーター大統領と米軍は密かに、大使館を強襲して人質を奪還する計画を立てた。双発機は、衛星監視で「前線基地(第一基地)候補」とされた場所に、当局に探知されず離着陸できるかの、偵察役だった。任務は成功した。
 計画によると、砂漠第一基地に、強襲ヘリコプター「シースタリオン」八機、軍用輸送機六機を送り込む。陸軍特殊部隊「デルタ・フォース」を中核とする約百三十人の救出部隊は、テヘ・・・