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連載

をんな千一夜 第37話

「昭和の妖怪」に仕え尽くした同胞
石井 妙子

2020年4月号

《岸 良子》

 コロナウイルスの蔓延に社会が混乱する中、国会では「言語は不明瞭、意味も不明瞭」な答弁が連日、繰り広げられている。コロナはもちろん恐ろしい。だが、未知のウイルスが国家の危機を引き起こしたというよりも、それによって国家の危機があからさまにされたように感じている。
 いつにも増して危機の宰相の言葉は力弱く空虚であった。手元の原稿を一生懸命読んでいたが、官僚が書いた文章にどれだけ当人の考えや思いが反映されているのだろう。自分で文章も書けず台本なしには発言もできない。そんな人に国のかじ取りができるのだろうか。とはいえ政治家ばかりを責められない。官僚も新聞記者も作家もおしなべて、筆力や思考力が落ちているのだ。その自覚を持たず自画自賛に走る新聞記者にも辟易とする。
 安倍晋三総理の敬愛する祖父、岸信介は善し悪しを別として巨大な人物だった。論理は明快。どんな質問を野党側が投げても、尻尾を掴まれることなく当意即妙に理路整然と返したという。もちろん振付師はいない。それが当たり前だったはずなのだが、いつからか国会や記・・・