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経済

《企業研究》富士フイルムHD

「アビガン特需」でも増す苦境

2020年7月号

「まったく先が見えない大きな不安の中でも希望は確実に生まれている」。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、政府が緊急事態宣言の発令に踏み切った今年四月七日。安倍晋三首相は会見でこう持ち上げてみせた。
 アビガン―のことだ。富士フイルムホールディングス(HD)傘下の富士フイルム富山化学が開発した抗インフルエンザ薬で、一般名ファビピラビル。それを新型コロナの最も有力な治療薬候補として名指しした。国内での治験を急ぎ、効果が確認できれば五月中にも薬事承認する意向を表明したのである。
 同時に打ち出された緊急経済対策(第一次補正予算)ではアビガンの備蓄計画も盛り込まれた。現在の備蓄量を二〇二〇年度末までに約三倍の二百万人分に引き上げ、上積みする百三十万人分の購入に百三十九億円の予算を充てる。富士フイルムHDの株価が跳ね上がったのは言うまでもない。
 だが、それから約三カ月―希望はいまなお不確実性の靄に覆われたままだ。パンデミックの第一波がひとまず和らいだことにより患者数が減って症例が集まらず、治験の終了が見通せないためだ。
 富士フイルム富山化学では九十六・・・