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連載

皇室の風 144

七つの「減点」
岩井 克己

2020年8月号

 敗戦から七十五年の節目となる夏がめぐってきた。
 八月十五日の「全国戦没者追悼式」は一九八六(昭和六十一)年から現場で取材したが、最も記憶に残るのは八八(同六十三)年、昭和天皇が最後に臨席した時の姿だ。
 前年秋に消化器がんが見つかったが、腸の通過障害のバイパス手術だけで不治の病と闘い続けていた。式典直前には那須御用邸で何度も倒れ、体重は四十七キロまで激減。側近らの間には式典臨席への反対論が強まっていた。
「断固強行」を主張したのが、「オク」の事務を仕切っていた卜部亮吾侍従だった。「最も長時間お側に仕えてるんだ。ご体調は侍医よりわかる」「反対論者は聖上の思いをわかっていない」と。
 那須から東京への往復に自衛隊ヘリを使ったのは「反対論を抑える妥協策」でもあった。
 会場の日本武道館の下見で「全国戦没者之霊」の標柱の立つ壇上へのスロープの勾配を測り、ようやく歩ける状態の天皇の歩速から秒刻みの式次第を調整。身体を支えるための机を「眼鏡の置き場」と称して設置させた。意識が遠のかないようにと薬も用意。天皇本人にも「黙祷の際も目をつむらないで下・・・