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連載

本に遇う 第248話

コロナとチャペック
河谷 史夫

2020年8月号

 世界中に新しい感染症が広がっている。各国で対応に躍起だが、全く効果がない。死者が増えていくばかりだ。お手上げかと思われたとき、「私は救える」という医者が現れた―と言っても、今のことでない。一九三七年に発表されたカレル・チャペックの戯曲『白い病』の発端である。
 一八年から一九年に大流行したスペイン風邪を知る作者が、第二次大戦開戦前夜の不気味な情勢の中で書いた作品として知られる。新訳が九月に岩波文庫で刊行されるのだが、本文がネットに出ていると、朝日新聞七月一日付夕刊で読んだ。東京大学准教授阿部賢一が翻訳し、ネット上の「note」(https://note.com/kenichi_abe)に無料公開したのだとある。
 本になる前の本と遇う。初めての体験であった。この三幕物は九二年に、『白疫病』の題名で栗栖継の訳書が金沢の十月社から出ているが、今は手に入りづらい。有難く無料公開の恩恵に浴した。
「白い病」になると、皮膚に白い斑点が出て、肉が腐り、悪臭を放ちながら死に至る。なぜか若い人は罹らない。五十歳前後が感染し、最後はモルヒネしかない。そこに「特効薬をつくっ・・・