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経済

第一三共「株価高転び」の暗雲

抗がん新薬への期待は「過剰」

2020年11月号

 第一三共が「絶好調」だ。五月二十九日には株価が三千三百六十二円と最高値を更新し、一年前の五月三十一日の一千七百五十二円の二倍近くになった。要因は乳がん向けの新薬「エンハーツ」の開発に成功したためだ。乳がんは女性に最も多いがんで、画期的新薬の開発の意義は大きい。しかし、エンハーツは画期的新薬というレベルには達していない。
 エンハーツは抗体薬物複合体(ADC)と称される薬剤。がん細胞の表面に発現するたんぱく質に抗体が結合し、がん組織だけに高濃度の薬剤を届けることができるとされ、高い治療効果と副作用の軽減が期待できる。
 第一三共と英アストラゼネカが共同で実施した治験では、従来の抗がん剤が効かなかった乳がん患者百八十四人について、六一%の奏効率を示し、無増悪生存期間は十六・四カ月だった。この成績は素晴らしく、日本での治験に参加した専門医は「他の抗がん剤が効かなかった患者を対象に、ここまで効くのは珍しい」という。この治験は対照群を持たない第二相試験だったが、昨年十二月に米国で、承認後の第三相試験実施の条件つきで「迅速承認」された。今年三月には日本、七月に欧州でも承認され・・・