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連載

日本の科学アラカルト 127

ナノの世界を制御する 「光圧」利用の最前線

2021年3月号

 光は粒子か波動か―。これは古い物理学での重要なテーマだった。結論を簡単に言えば光は粒子であり波動でもある。
 光を含む電磁波は両方の特徴を持っている。いわゆる量子の世界の話になるが、日々浴びている光が「粒子でもある」と言われても、俄かにはピンとこないだろう。「粒子なら体に当たったことを感じるのではないか?」。答えはイエスだ。ただしその力が極めて小さいため感じることができない。また、光の粒子である「光子」は質量がゼロなので、単純にニュートン力学でボールがぶつかったときのようなシステムで力が伝わるわけではない。質量×速度という形で表される運動量はないからだ。
 前述した通り、光は波動の性質を持っている。その観点でみれば質量がゼロでも運動量を持つ。光がどこかで反射、もしくは吸収されたら光子の運動量が変わり、その分の運動量が反射、吸収された相手に伝わるのである。
 光を含む電磁波が当たった物体の受ける圧力を「光圧」と呼ぶ。放射圧、輻射圧と呼ばれることもあるが、この存在自体は量子力学が確立する以前の十九世紀の段階で知られていた。
 そのため考・・・

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