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社会・文化

食料安全保障で「大敗」する日本

欧米中が競う「新次元」の農業覇権

2021年4月号

 新型コロナウイルスが地球規模の食料供給網の脆弱性をあぶり出し、貧困ライン以下で生活している人たちを追い詰めている。国連が推計中の二〇二〇年の飢餓人口は、前年の約六億九千万人から一億人前後増える見込みだ。農業生産の停滞だけでなく、人や物資の移動制限や先進国の経済不振に伴う支援の減少で、二一年はさらに増加する恐れがある。危機感を深めた国連は、「フード・システムズ・サミット」の九月開催を計画中だ。
 コロナの感染拡大が深刻になった一年前の五月初め、二十日間も動静不明で「重体説」が流れていた金正恩・朝鮮労働党委員長は、平安南道の順川に突然、元気な姿を現した。最新鋭のリン酸肥料工場の完工式に出席し「正面突破、自力富強、自力繁栄」と、食料自給の決意を示したのだ。
 中国との国境封鎖で食料の調達が難しくなる中、食料安全保障の要は肥料の確保であることを象徴的に示したと言える。国内の動揺を鎮めるための演出だとしても、感染症に対する強い警戒と長期化への備え、食料安保に向き合う真剣さにおいて、一国のリーダーとして正しい対応だ。食料自給率の向上を唱えながらリン酸の全量を輸入に依存している・・・

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