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連載

皇室の風 155

天皇車列乱れる
岩井 克己

2021年7月号

 五輪というと思い出すのは一九九八(平成十)年二月、長野冬季五輪に臨場する天皇・皇后(現上皇夫妻)の同行取材で遭遇したハプニングのことである。
 七日の開会式、十九日から四日間に及ぶ競技観戦、そして閉会式。信州の祭りが勢揃い、二千もの和太鼓の勇壮な揃い打ち、五輪旗引き継ぎ、国際オリンピック委員会(IOC)会長サマランチの閉会の辞の「アリガトウ・ナガノ」、聖火消灯、そして五千発の花火……。
 観客も選手らも酔いしれた日程の裏で、その「事件」は起きた。
 夕闇も迫る、ある会場出口で、天皇の車列が一斉にエンジンを始動するなか、記者たちも車列最後尾の報道バスに駆け込んだ。側近ら関係者もそれぞれに乗車し、「御発」を待った。
 すると突然、報道バスに同乗した長野県職員が「車列にはサマランチ会長の車も加わり、ご一緒に宿舎に向かわれます」と言い出した。天皇の車列に急に予定外の車を加えるなどというのは前代未聞のことだ。
 車寄せに出てきた天皇・皇后は関係者と別れの挨拶を交わすと「御料車」に乗り込んだ。
 ところが車列・・・