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連載

大往生考 第24話

早すぎる不可解な幕切れ
佐野 海那斗

2021年12月号

 その患者は、まだ二十歳代半ばの女性だった。
 血尿が続き、赤血球・白血球・血小板が減少する汎血球減少も指摘され、入院してきた。当時、私は駆け出しの内科医で、部長の医師と共にこの女性を受け持った。私は、難病患者の担当にやりがいを感じていた。少しでも多くの経験を積み、実力をつけたかったし、他の医師が分からない病気を診断し、その結果を学術論文として発表すれば、実績にもなるからだ。
 彼女の担当になると、まず汎血球減少の原因を調べるための骨髄生検を実施した。結果はすぐに戻ってきた。報告書には、「高度の造血抑制および骨髄異形成」と書かれていた。これは、高齢者に多い骨髄異形成症候群(MDS)という悪性疾患に特徴的な所見だ。ただ、MDSでは血尿は生じないし、二十歳代での発症は稀だ。
 私は、血尿の精査のため、患者を泌尿器科に紹介した。泌尿器科では、膀胱鏡検査が行われた。予想はしていたが、膀胱粘膜は広範にただれていて、生検結果は間質性膀胱炎だった。間質性膀胱炎とは、何らかの理由で膀胱に炎症が起こり、頻尿や排尿時痛を来す難病だ。膀胱粘膜の機能障害や免疫異常の関与、あるいは・・・