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政治

自民党「新三派体制」の黄昏

《政界スキャン》

2022年4月号

 大物のいなくなった政界で「最後の怪物」といえば、渡辺恒雄読売新聞グループ本社代表取締役主筆(九五歳)である。議員バッジを付けていなくても、長年首相クラスと対等に渡り合い政争の渦を暗躍してきた実像は、記者を兼ねたプレーヤーである。
 書くことへの情熱も熱く、著書は多い。最初の本が『派閥-保守党の解剖』(弘文堂・一九五八年)だった。当時三十二歳、岸信介内閣時代。旧首相官邸の番記者小屋で、麻雀と昼寝にうつつを抜かす同僚・他社記者を横目に、渡辺記者はアルバイト原稿を書きまくっていた。一日原稿用紙三十枚の超量産ペース。一冊三百五十枚分を十日ほどで書き上げたというから、物書きとしても剛腕だった。
 作家はデビュー作に特質の全てが表れる。実践に観察に「派閥人間」を貫き、読売社内においても強引な派閥作りで独裁体制を築いたその後の足跡を振り返れば、同書の主題はなんと暗示的か。
 あとがきにこうある。政党政治は多くの欠陥と弊害を持つが、戦時翼賛体制下の軍部・官僚勢力による圧迫を思い起こせば、政党政治を再び殺してはならない。それには現実ありのままの政党を長短両面えぐり出す必要・・・