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社会・文化

「地方移住」を選ぶ音楽家たち

コロナで進む芸術の「拡散」

2023年1月号

 コロナ禍の三年間は、あらゆる人の生き方に大きな影響を与えた。自分の音楽を必要とする聴衆を巡る旅人としての人生が基本の音楽家たちも、楽器や譜面を下ろし、足を止め、周囲を見回し、行く先を考えることになる。
 日本のクラシックギター界を代表する長老福田進一(六七)にとって、パンデミックは文字通り目の前で始まった。二〇一八年、一九年と続いた北米やロシアなど海外公演を終え、恒例の年明け横浜でのレコーディング真っ最中に、目と鼻の先の桟橋でコロナ騒動が勃発する。自粛期間中は、東京・豊島区の自宅からインターネットでアメリカのバークレー音楽院から頼まれレッスンをやり、世界中から百名近くのギタリストを集め名チェロ奏者ヨーヨー・マと共演する、「The Walls」というプロジェクトにも参加した。だが、オンラインでは細かいニュアンスを伝えられないと感じるばかり。
 そんなとき山形の義父が脳梗塞で倒れ、閑散とした飛行機で庄内に頻繁に通う。そもそも夫人との出会いが庄内の熱心な愛好家が始めたギター・フェスティバルで、地縁はある。「年齢的なこともあり、もうやりたいことだけをやりたい。で、どこにい・・・

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