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社会・文化

農業壊滅まで 「残り十五年」

農家「労務倒産」が国家の危機に

2023年9月号

 今春の大手企業の賃上げは約三十年ぶりの高水準だった。七月には最低賃金を全国平均で時給一千二円に引き上げる目安額がまとまり、八月には国家公務員給与の引き上げが勧告された。岸田文雄首相は「賃上げは最重要課題の一つ」と歓迎する。物価上昇を上回る形で賃金が上昇すれば、消費の拡大を通じて経済の好循環を期待できる。
 しかし、主に米を生産している家族経営の農家にとって、賃上げは「好循環」どころか、破滅に向かう導火線だ。基幹的農業従事者(主に自営農業に従事している人)は、百十六万四千人(二〇二三年)と、約二十年で半減した。高齢化も著しく、平均年齢は六十八・四歳(二二年)だ。この傾向は今後も加速する。農林水産省は、二十年後に二十五万~三十万人になると予想している。
「量」だけではない。「質」の面でも深刻な劣化が起きる。経営規模が百ヘクタール(以下ha)を超え、法人化した大規模稲作経営が増えてきているが、稲作の大宗を担っているのは家族営農だ。その戸数は減少を続けながらも、引退した戸主の後を定年退職した次世代が継ぐことで下支えしてきた。
 彼らは統計上、「新規就農者」として・・・

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