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連載

現代史の言霊  第66話

ピノチェト拘束(一九九八年)
伊熊 幹雄

2023年10月号

治安機関のおかげでチリは平和だ
アウグスト・ピノチェト(元チリ大統領)

 一九七〇年代の後半に学生時代を迎えた筆者にとって、国際問題への目を開かせてくれる事件には事欠かなかった。少し前に起きた、『収容所群島』(アレクサンドル・ソルジェニーツィン著)刊行と、チリやアルゼンチンでの「汚い戦争」は、特に印象深かった。
 今月取り上げるのは、チリの数十年に及ぶ人権と正義をめぐる戦いである。
 南米大陸の太平洋岸に細長く伸びるチリは、七〇年代初頭、「革命」を巡って揺れていた。産業が発達したチリでは、労働組合と左派政党が強かった。七〇年の大統領選では、サルバドール・アジェンデが中道、左派勢力をまとめて勝利し、アジェンデ政権が誕生した。

米国とチリ軍の策謀

 慌てたのは、当時のリチャード・ニクソン米大統領と中央情報局(CIA)だ。仇敵であるキューバの指導者フィデル・カストロは熱心にアジェンデを支持していた・・・

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