三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月刊総合情報誌

経済

米国に「工場」は戻らない

相互関税で日本は浮足立つな

2025年5月号

 トランプ米大統領の根底にある願望は「米国を再び偉大な国にする(MAGA)」だが、その具体的なイメージは「米国を何でも生産できる世界一の製造業国家に戻す」ことにある。輸入関税引き上げ、ドル安誘導という劇薬の政策に走るのは経済安全保障の目的もあるが、衣料、家電、自動車、鉄鋼などの工場が並ぶ1960年代までの米国の風景を取り戻すためだろう。だが、少子高齢化が進む一方、一人あたり国内総生産(GDP)が世界7位の国に工場が戻るはずはない。“トランプ白昼夢”に真剣に向き合うことは企業にとって自殺行為になりかねない。
 トランプ大統領の自動車関税、一律関税の発動が発表され始めた3月下旬、日本の自動車部品メーカーが密かにテキサス州の工場を閉鎖し、ベトナムへの生産移管を決定した。「自動車・同部品向け25%」関税を知った上での移転は「米国ではワーカーの確保が今後、ますます困難になる」という実感からだった。同社関係者は「25%の関税を負担しても人件費の上昇とサプライチェーンの不安定さを考えれば正しい判断」と強調する。
 同社が判断した段階ではベトナム向け相互関税・・・

この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます