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社会・文化

《日本のサンクチュアリ》サントリーホール

開館40周年「名音楽堂」の光と影

2026年1月号

 復興を急いだ戦後の日本の街並みや鉄道の駅などは、効率と低コストの追求から画一的なデザインが氾濫した。その手法がしみついたせいか、個性や付加価値が重視される今も、成功例に画一的に倣って伝統や個性を上書きする事例は少なくない。模倣される側もそこに安住し、時代の変化に乗り遅れることもある。開館40周年を迎え、内外の揺るぎない評価を得てきた「サントリーホール」(東京・赤坂)の負の側面も、そこにある。
 ホール本体が霊南坂教会から谷筋へと降下する斜面に組み込まれ、屋上の「野鳥サンクチュアリ」がスカイラインの一部をなすサントリーホールには、明快で印象的な外観がない。
 所在地の赤坂アークヒルズは、総合ディベロッパーの森ビルによる日本初の大規模都市再開発で誕生した。六本木地区の一等地ながら場末感も漂っていた住宅密集地で、森ビルは高所得層が移り住みたくなる街づくりを通じて居住環境を向上させるジェントリフィケーションを企図し、そこに文化施設を据える構想を描いた。
 これを受け、サントリーの宣伝部イベント企画担当者が1981年、同社の名を冠したホールの建設とそこを拠点とする・・・

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