高市成長戦略は壮大な「無駄遣い」
民間活力を奪う「国家主導」の愚策
2026年3月号公開
高市早苗第2次政権が発足し、自由民主党が衆議院の3分の2以上の議席を握る状況下で経済政策が打ち出された。最大の特徴は市場を軽視し、政府主導で経済を動かそうという権威主義にある。その証左は戦略17分野にフィンテックも「デジタル円」も入らず、無視されていることだ。金融市場は市場原理で動き、政府の思い通りにはならないが故に高市首相は無視を決め込んだ。危機管理、セキュリティを産業政策の前面に出すが、それらはプロフィットセンターにはならない。施政方針演説では中小企業、地方、環境もほぼ無視された。経済界はサナエノミクスを支持しているわけではない。
「バブル崩壊以降、自民党が続けてきた景気刺激策は『無責任な積極財政』『無意味な緊縮財政』だったわけか?」。引退した元自民党議員は高市首相の言葉に大勝した自民党総裁の傲慢さしか感じない、という。
バブル期以降の大規模財政出動こそ今日、日本財政の持続可能性を世界が疑う状況を生んだが、その反省なしに積極財政をさらに拡大する、という。故安倍晋三元首相以降の菅義偉、岸田文雄、石破茂の3政権が財政均衡を目指し、支出を抑制してきたことは「過度な緊縮志向」で片付けていいことなのか。
金融市場に無頓着な首相
首相の施政方針演説には一つの数字も現場で起きている事実もなく、「成長のスイッチを押して、押して、押しまくる」といったレトリックしかない。『民主主義』『国民生活』という歴代首相が重視した言葉は2度ずつしか登場せず、それも日米同盟や混乱回避の文脈で用いられているのみ。高市政権の視線は安全保障や国家にしか向いていない。
高市政権の経済政策は産業に大きく偏り、財政や金融市場との対話という視点が欠けている。官邸やブレーンに多くの経済産業省出身者を並べ、財務省との調整は同省出身の片山さつき財務相に丸投げといった様子だ。2月16日の高市首相と植田和男日銀総裁との会談について植田総裁は「金融政策について特に要望はなかった」と述べ、高市首相の関心が金融市場にないことを明らかにした。
高市首相はトヨタ自動車をはじめ産業界の要望をくみ入れ、円安維持派とされるが、それ以上の考えはないようだ。円安進行による輸入物価上昇への懸念や日本国債の消化難がもたらす長期金利上昇などへの言及は昨年10月の所信表明を含め、ほとんどない。これほど金融市場に無頓着な首相も珍しい。
代わって首相の関心は安全保障とセキュリティに集中している。首相が示した戦略17分野のうち12分野は「AI・半導体」「量子」「創薬・先端医療」「フュージョンエネルギー(核融合)」「情報通信」など先端産業の育成であり、自国技術を確保することで安全保障を高めようという発想である。通常の産業政策のように国内総生産(GDP)を伸ばし、雇用と貿易黒字を確保しようという考えとは趣が異なる。
残る5分野は「デジタル・サイバーセキュリティ」「資源・エネルギー安全保障・GX」「防災・国土強靱化」「マテリアル」など、他国からの様々な攻撃や資源供給の途絶、自然災害への対応力に焦点をあてており、成長戦略ではない。
「民間企業や研究者が沸き立つということはなく、むしろ国家主導の締め付けが恐ろしい」と感想を述べる経済人もいる。例えば、「造船」はトランプ大統領が昨年ぶち上げた構想で、高市首相は日韓米で中国への対抗軸をつくる考えだ。
だが、労働力不足で多くの国内造船所は外国人労働者に依存しているだけでなく、中国やフィリピンなどに主力の造船所をすでに移している。川崎重工業は中国の江蘇省南通と遼寧省大連に主力造船所があり、常石造船もフィリピン・セブ島と中国・浙江省舟山群島が建造能力の7割以上を占める。今さら国内で造船能力を高めろという指示は無理な話なのだ。
国家安全保障のためには民間は政府の言いなりになれ、といって応じるのは三菱重工業や今治造船のように補助金や政府発注を期待できる一部の造船会社にすぎない。
日本と欧州を結ぶコンテナ船の直行便を廃止―。日本郵船、商船三井、川崎汽船のコンテナ事業を統合したオーシャン・ネットワーク・エクスプレス(ONE)が1月に発表したこのニュースは日本の製造業に衝撃を与えた。
これで日本発の欧州向けコンテナはすべて韓国・釜山や中国・上海での積み替えになるからだ。ONEが廃止に踏み切った理由は日本発の貨物の減少にあり、日本製造業の輸出の落ち込みそのものを示している。
こうした現実がありながら、高市政権は「港湾ロジスティクス」を戦略17分野にいれ、物流の国際競争力強化を主張する。実体経済をおおよそ無視した暴論にすぎない。ロジスティクスは国内での生産活動の活発化があって初めて強化する意味があるが、首相の政策は完全にあべこべの論理なのだ。
「マグロの養殖やレタス、トマトの栽培工場もいいけど、コメはいったいどうしたんだ」。17分野に入った「フードテック」に農業関係者は不満をぶつける。コメの安定供給、価格安定は日本の食の最大のテーマだが、施政方針演説での言及は142文字。首相は、対外発信になり目立つ養殖や農産物のブランド化にしか目が向いていない。
有能な企業は国外へ逃げる
中小企業対策については一段とおざなりだ。「小規模事業者などの稼ぐ力を抜本的に強化します。プッシュ型の伴走支援に取り組みます」と標榜するが、まさか政府が零細企業の経営改善をするはずもない。地方銀行や信用金庫が労力をかけ、リスクを取りながら取り組んでいることを政府の施策と呼ぶのは傲岸不遜としか言いようがない。
高市政権の経済政策全体にうかがえるのは、政府主導で民間は言うことを聞いていればよい、という権威主義であり、それを支えているのは軍事力による安全保障を基盤とする古い国家観にすぎない。とすれば、首相が実現すると大見得を切る消費税減税も本気とは思えない。税収の減少は大きな政府による権威主義的政策を遂行するには不都合だからだ。
AIなどを開発する多くの企業、スタートアップも国家安全保障と結び付けられれば、開発の制約要因としか感じないだろう。そうした企業はシンガポールや米西海岸にでも脱出し、日本を見限るだけだ。
「働いて、働いて」「押して、押して」の高市ワンフレーズ政治にだまされてはいけない。
「バブル崩壊以降、自民党が続けてきた景気刺激策は『無責任な積極財政』『無意味な緊縮財政』だったわけか?」。引退した元自民党議員は高市首相の言葉に大勝した自民党総裁の傲慢さしか感じない、という。
バブル期以降の大規模財政出動こそ今日、日本財政の持続可能性を世界が疑う状況を生んだが、その反省なしに積極財政をさらに拡大する、という。故安倍晋三元首相以降の菅義偉、岸田文雄、石破茂の3政権が財政均衡を目指し、支出を抑制してきたことは「過度な緊縮志向」で片付けていいことなのか。
金融市場に無頓着な首相
首相の施政方針演説には一つの数字も現場で起きている事実もなく、「成長のスイッチを押して、押して、押しまくる」といったレトリックしかない。『民主主義』『国民生活』という歴代首相が重視した言葉は2度ずつしか登場せず、それも日米同盟や混乱回避の文脈で用いられているのみ。高市政権の視線は安全保障や国家にしか向いていない。
高市政権の経済政策は産業に大きく偏り、財政や金融市場との対話という視点が欠けている。官邸やブレーンに多くの経済産業省出身者を並べ、財務省との調整は同省出身の片山さつき財務相に丸投げといった様子だ。2月16日の高市首相と植田和男日銀総裁との会談について植田総裁は「金融政策について特に要望はなかった」と述べ、高市首相の関心が金融市場にないことを明らかにした。
高市首相はトヨタ自動車をはじめ産業界の要望をくみ入れ、円安維持派とされるが、それ以上の考えはないようだ。円安進行による輸入物価上昇への懸念や日本国債の消化難がもたらす長期金利上昇などへの言及は昨年10月の所信表明を含め、ほとんどない。これほど金融市場に無頓着な首相も珍しい。
代わって首相の関心は安全保障とセキュリティに集中している。首相が示した戦略17分野のうち12分野は「AI・半導体」「量子」「創薬・先端医療」「フュージョンエネルギー(核融合)」「情報通信」など先端産業の育成であり、自国技術を確保することで安全保障を高めようという発想である。通常の産業政策のように国内総生産(GDP)を伸ばし、雇用と貿易黒字を確保しようという考えとは趣が異なる。
残る5分野は「デジタル・サイバーセキュリティ」「資源・エネルギー安全保障・GX」「防災・国土強靱化」「マテリアル」など、他国からの様々な攻撃や資源供給の途絶、自然災害への対応力に焦点をあてており、成長戦略ではない。
「民間企業や研究者が沸き立つということはなく、むしろ国家主導の締め付けが恐ろしい」と感想を述べる経済人もいる。例えば、「造船」はトランプ大統領が昨年ぶち上げた構想で、高市首相は日韓米で中国への対抗軸をつくる考えだ。
だが、労働力不足で多くの国内造船所は外国人労働者に依存しているだけでなく、中国やフィリピンなどに主力の造船所をすでに移している。川崎重工業は中国の江蘇省南通と遼寧省大連に主力造船所があり、常石造船もフィリピン・セブ島と中国・浙江省舟山群島が建造能力の7割以上を占める。今さら国内で造船能力を高めろという指示は無理な話なのだ。
国家安全保障のためには民間は政府の言いなりになれ、といって応じるのは三菱重工業や今治造船のように補助金や政府発注を期待できる一部の造船会社にすぎない。
日本と欧州を結ぶコンテナ船の直行便を廃止―。日本郵船、商船三井、川崎汽船のコンテナ事業を統合したオーシャン・ネットワーク・エクスプレス(ONE)が1月に発表したこのニュースは日本の製造業に衝撃を与えた。
これで日本発の欧州向けコンテナはすべて韓国・釜山や中国・上海での積み替えになるからだ。ONEが廃止に踏み切った理由は日本発の貨物の減少にあり、日本製造業の輸出の落ち込みそのものを示している。
こうした現実がありながら、高市政権は「港湾ロジスティクス」を戦略17分野にいれ、物流の国際競争力強化を主張する。実体経済をおおよそ無視した暴論にすぎない。ロジスティクスは国内での生産活動の活発化があって初めて強化する意味があるが、首相の政策は完全にあべこべの論理なのだ。
「マグロの養殖やレタス、トマトの栽培工場もいいけど、コメはいったいどうしたんだ」。17分野に入った「フードテック」に農業関係者は不満をぶつける。コメの安定供給、価格安定は日本の食の最大のテーマだが、施政方針演説での言及は142文字。首相は、対外発信になり目立つ養殖や農産物のブランド化にしか目が向いていない。
有能な企業は国外へ逃げる
中小企業対策については一段とおざなりだ。「小規模事業者などの稼ぐ力を抜本的に強化します。プッシュ型の伴走支援に取り組みます」と標榜するが、まさか政府が零細企業の経営改善をするはずもない。地方銀行や信用金庫が労力をかけ、リスクを取りながら取り組んでいることを政府の施策と呼ぶのは傲岸不遜としか言いようがない。
高市政権の経済政策全体にうかがえるのは、政府主導で民間は言うことを聞いていればよい、という権威主義であり、それを支えているのは軍事力による安全保障を基盤とする古い国家観にすぎない。とすれば、首相が実現すると大見得を切る消費税減税も本気とは思えない。税収の減少は大きな政府による権威主義的政策を遂行するには不都合だからだ。
AIなどを開発する多くの企業、スタートアップも国家安全保障と結び付けられれば、開発の制約要因としか感じないだろう。そうした企業はシンガポールや米西海岸にでも脱出し、日本を見限るだけだ。
「働いて、働いて」「押して、押して」の高市ワンフレーズ政治にだまされてはいけない。
掲載物の無断転載・複製を禁じます©選択出版








