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経済

ニデックを持て囃した日経新聞の罪

永守礼賛報道に反省「皆無」

2026年4月号公開

 不正会計で満身創痍のニデック。元凶は、苛烈なプレッシャーを社内に与え続けた怪物創業者・永守重信氏のパワーハラスメント経営にあるとして、ここぞとばかりにメディアがバッシングしている。この展開にSNSでは、オールドメディア、中でも「日本経済新聞の手のひら返しがひどい」という声が高まっている。
 第三者委員会が不正会計にまつわる調査報告書を発表した後、日経新聞は永守氏への批判記事を立て続けに掲載した。「ニデック永守氏『無責任野郎ばかりそろいやがって』第三者委報告から」「ニデック会計不正、カリスマ永守氏を縛った『売上高10兆円』のホラ」、挙げ句の果てには社説において「永守流カリスマ経営はなぜ暴走したのか」と同氏を断罪し、こう説教する始末だ。「めざましい実績を残した経営者があるときから軌道を外れ、暴走を始める。(中略)株主の信頼を裏切ったニデックの不正会計が提起するのは、企業統治にまつわる古くからの難問である」。
 こうした日経新聞の報道姿勢に違和感を覚えた読者から「おまいう(お前が言うな)」という本音がSNS上で拡散されている。

「カリスマ経営者」と称揚

 というのも、日経新聞は不正会計が発覚する前は、さんざん永守氏を「名経営者」として持ち上げてきたからだ。日経新聞電子版では現在、2010年以降の記事を検索できるが、既に同年時点で永守氏を「カリスマ経営者」と表現している。ある時期には2年以上にわたって「一流経営者」として永守氏による「経営者ブログ」を掲載していた。また、「永守重信」でヒットする記事は軽く千本を超える。同じく日経新聞が「名経営者」として褒めそやしているソフトバンクグループ会長の孫正義氏には負けるものの、ファーストリテイリング会長の柳井正氏よりも多い。ニデックが産業部品であるモーターを中心に扱っているBtoBの企業である点を踏まえると、破格の扱いと言えるだろう。
 確かに、一代で年間売上高2兆円を超える大企業を築いた永守氏の経営手腕には目を見張るものがある。だが同時に、成長軌道にあることを株式市場に示すために、同氏は異常なほど株価や営業利益にこだわってきた。そして、その株価上昇や増益を実現するために、パワハラという言葉が生まれるよりもずっと以前から、従業員に「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」と業績目標の必達を強要し、出来なければ罵声を浴びせた上で、降格を含む懲罰的な人事を平気で繰り返してきたのだ。
 だが、そんなことは第三者委員会の報告書を待たずとも経済紙誌の記者なら昔から知っている事実だ。中でも、ニデックの番記者を擁する日経新聞が知らないはずはない。にもかかわらず、永守氏によるガバナンスやコンプライアンスの軽視には目をつぶり、売上高の伸長ばかりを見て、同氏やニデックの宣伝につながる報道を繰り返してきたというのが実態だ。
 なぜこうなったのか。最大の問題は、ニデックに対して忖度を働かせてきたことだ。現在はバッシング報道によるサンドバッグ状態を涙目で耐えるしかないニデックだが、本来は攻撃的なメディア対応で知られている。ニデックや永守氏に対して少しでも批判的な記事を書くと、「広報宣伝部長の渡邉啓太氏が猛烈なクレームを付けてくる。声を荒らげながら訂正しろ、取り下げろなどと言ってくることも珍しくない」(日経新聞の記者)。
 当然だが、たとえ広報からクレームが来ても、メディアは記事内容に明確な間違いがない場合は相手にしない。ところが、言い分が通らない場合、ニデックは陰湿な行動に出る。「批判的な記事を書いた記者やメディアに出入り禁止を宣告する。個別取材に応じないのはもちろん、記者会見からも閉め出す」(前出の記者)。
 東証プライム上場企業としてあるまじき対応だが、これももちろん、永守氏の指示によるもの。同氏は稟議書だけではなく、ニデックや自身について書かれた記事の全てに目を通すというのもメディアでは有名な話だ。
 出禁になると「特落ち」のリスクが高まる。すると、ニデックの番記者が責められるだけではなく、デスクや編集長の責任も問われかねない。番記者は常に永守氏から直接恫喝を受ける可能性があるため、批判的な記事を書くのを躊躇する。事実、永守氏は記者会見の席でも、気に入らない質問をした記者やアナリストを平気で恫喝してきた。株主総会の場で、株価の低迷について質問した株主に対し、永守氏は激高して「嫌なら買わなければいい」と言い放った。
 ある経済誌の記者がニデック関連のネタを追っていた時、一度掲載された日経新聞電子版の記事のタイトルが、短時間のうちに変更されたことに違和感を覚えた。そこで、ニデックの広報部に確認すると、「実は、その記事のタイトルが永守の逆鱗に触れて日経新聞に抗議したところ、タイトルが変わった」と聞いて唖然としたという。
 ニデックの番記者を経て編集長などに出世した者は、永守氏のこうしたメディア対応をよく知っているため、同社に批判的な記事の掲載に及び腰になる。「直接書くなとは言わないが、クレームがきついから慎重に対応しろなどと言われ、結局は面倒だから書かない」(前出日経新聞記者)というわけだ。
 要は、日経新聞は永守氏の恫喝に屈し、また保身のために、ニデックのブラック体質を見て見ぬ振りをして、「カリスマ経営者」が創業した成長企業としてひたすら崇め奉ってきたのだ。

ブラック企業体質を是認

 言い逃れはできない。永守氏が日産自動車から一本釣りしてニデックの社長に据えた関潤氏を更迭した2022年9月以降、永守氏のあまりの傍若無人ぶりに役員や従業員から反発の声が上がり、その声をきっかけに経済誌の『週刊ダイヤモンド』と『週刊東洋経済』が永守氏に対して批判的な記事を掲載した。この内容に激怒した同氏は、両誌を名誉毀損で提訴。その結果、ダイヤモンドの記事は一部で名誉毀損が認定されたものの、記事の多くは公益性が認められた。東洋経済は名誉毀損により賠償命令を受けた。
 裁判所の判断の正否はともかく、訴訟や出禁のリスクにひるまずに永守氏と対峙して読者に「真実」を伝えようとした点は評価できる。少なくとも、2024年4月においてすら「ホワイト企業はモーレツに敗北 働きがい高めプラチナへ」というタイトルの記事で、「『ハードワークで勝つまでやる。ワークライフバランスなんて言ってると戦いに負ける』。ニデックの永守重信グローバルグループ代表は断じる。(中略)ホワイト企業はモーレツ企業に勝てるのか」などと、実態は漆黒のブラック企業のニデックを持ち上げている時点で日経新聞は終わっている。


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