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連載

本に遇う 第315話

アメリカ様のおかげ
河谷 史夫

2026年3月号

 新聞はどこも部数が激減し、本も雑誌も売れなくなりで、グーテンベルクの時代は、今や去りつつあるようである。
 社説ほどではないが読まれることの少ない新聞小説が映画になったら大当たりして、おかげで文庫本まで売れ行き上々というから、吉田修一の『国宝』は、書籍業界にとっては勲章ものであろう。
 正月、長崎に珍しく雪が降り積もった日、ヤクザの新年会が殴り込みをかけられる場面から物語は始まる。出入りで父親を殺された不良中学生が歌舞伎界に入り、女形として人間国宝にまで成り上がるという奇跡のような出世譚である。人物造形に深みがないのは遺憾だが、観劇客が増えたそうで松竹も勲章をやったらいい。
 仁義なきヤクザ業界で闇討ちは珍しくはないけれど、年明け早々の深更未明にトランプのアメリカがベネズエラに侵攻、大統領のマドゥロを拉致してニューヨークの法廷に引きずり出したのには驚いた。日本の首相の沈黙に驚かなかったのは、トランプ来日のときの高市早苗の媚びへつらいぶりを思えば当然だったからだ。
 おどし、すかし、やらずぶったくり、そして殴り込みはヤクザの常套である。ベネズエラ・・・

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