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連載

還りのいのち 還りの医療 自然死への道を求めて 連載 40

がん情報二〇一〇
米沢 慧(評論家)

2010年2月号

 暮れから新年にかけて目に止まった二、三のがん情報に注目した。その一つは立花隆。一昨年末膀胱がんが発見され、その切除手術を受ける自らの姿も映し出されたNHKスペシャル「立花隆 がん 生と死の謎に挑む」(二〇〇九年十一月二十三日)と、それに関連した記事である。
 だが、この番組は立花氏自身を採りあげたものではなく、また単にがん治療の最前線を追っかけたものでもなかった。たしかに欧米・日本のがん研究者数十人を訪ね歩き、その成果をわかりやすく紹介したものだったが、今回とりわけ興味深かったのは、なぜがん克服は困難なのか、そもそもがんとは何かが正面から問われていたことだ。
 そしてあらためて気づかされたのは、がんという病を問うことは生命とは何かを問うことであり、同時にがん医療の限界とあわせて、人間はいかに死ぬ力(死ぬまで生きるという力)をもっているか、その力強さを引き出した出色の番組だった。
「がんというのは、しぶとすぎるほどしぶとい病気です。それは生命そのものを孕んでいる、ひとつの避けられない運命という側面をもっている」と立花氏は口にする。どういうことか。
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