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連載

本に遇う 連載 123

いまは「女房の亭主」
河谷 史夫

2010年3月号

 突然のことではなくて、前々から予定されていたことであるが、二月の半ばに勤め先を離れた。六十歳の定年におまけをつけてくれたので六十五までいた。三十九年と十カ月いたことになる。
 朝日新聞というところは「ぬるま湯」といわれた。出ると風邪を引くとの謂である。物足りないものがあると同時に、あまりぎちぎちとしていない、一種のおおらかさを讃えたものでもあったらしい。もっともわたしが入った一九七〇年以降、年々歳々しみったれてきた趣は免れないが、鈍感なせいかわたしなどは、ぼんやり過ごしているうちに、いつの間にか時が経ってしまったという気分だ。
 新聞記者は地方の警察回りから駆け出す。茫々四十年のむかし、初任地の宇都宮で初めて書いた交通事故の原稿に四苦八苦したことを今も悪夢に見る。たかが十数行の原稿に一時間も二時間もかかった。子どものころから多少持っていた「作文」への自信など木っ端微塵に吹っ飛んでしまった。
 新聞記者はたいてい初めての記事を後生大事に覚えているものだが、最初の記事といえば、大記者門田勲のものが面白い。
 門田は一九〇二年生まれ。三高から京都帝大・・・