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連載

還りのいのち 還りの医療 自然死への道を求めて 連載43

介護の理念 十一年目を迎えた介護保険法にふれて
米沢 慧(評論家)

2010年5月号

 高齢者が老いに対して抱く恐怖は二つ。もし、食事ができなくなったら誰が食べさせてくれるのか。もし、糞尿を垂れ流しするようになったら誰が世話をしてくれるのか。これらを「介護の社会化」として社会保険サービスの対象としたのが十年前にスタートした介護保険の革命的な意義だといってよいだろう。施行直後、わが家では九十三歳の寝たきりだった義母が介護保険の恩恵(要介護5~3)を享受し、顔をほころばせて待ったのが巡回入浴サービスだった。
 介護サービスはあくまでも利用者の老い(障害)の進度に沿ってのもので、所得の多寡や家族内の介護者の有無や扶養関係に還元するものではなかった。これが介護の専門家による「高齢者の自立生活支援」であり、また家族を介護地獄から解放する「介護の社会化」という理念に適ったものだったのである。
 介護保険制度はこの四月で十一年目に入った。高齢者の生活支援の大きな柱として現在約四百五十万人が介護認定を受け利用している。間もなく団塊の世代を被保険者に迎え利用者はさらに増加するが、はたして十分に応えることができるのか。
 社会保障審議会の委員としてこの制度を検・・・