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連載

皇室の風30

久米舞の謎
岩井克己

2011年2月号

 天皇の即位の祭儀「大嘗祭」の宴会「豊明節会」で披露される国風の雅楽が久米舞だ。
 古事記・日本書紀の神武東征の条で、天皇の勇猛な戦士集団・久米部の戦勝歌として採録され、後に大伴氏が琴を弾き佐伯氏が剣を執って舞う宮廷の式楽として様式化したとされる。歌詞「撃ちてし止まむ」は、戦時中に陸軍省が戦意高揚のスローガンに使い、久米歌と言えば「撃ちてし止まむ」と連想されたものだ。
 平成の天皇の大嘗祭の際も、宮中饗宴「大饗の儀」が一九九〇年(平成二年)十一月二十四、二十五両日、宮殿の大食堂「豊明殿」で三回開かれ、この席で宮内庁楽部によって久米舞が披露された。
「この舞の参音声及び揚拍子の歌詞は、神武天皇の御製と伝えられています。大和地方の久米氏により歌い舞われたという我が国で最も起源の古い歌舞であります」と宮内庁の説明書きにある。
 竜笛、篳篥、和琴の音とともに、巻纓の冠に赤色の武官装束を着用した四人の舞人が、鳳凰の蒔絵飾りの太刀を抜いて敵を切り伏せるような動作で力強く舞った。

(一)宇陀の 高城に 鴫罠張る 我が待つや 鴫は障らず い・・・