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政治の荒廃は「民度低下」の裏返し

リチャード・ロイド・パリー (英タイムズ紙東京支局長)

2011年8月号公開

 ―世界に恥をさらし続ける日本の政治の混乱をどう見ていますか。

 パリー 私をはじめ海外のメディアは当惑とある程度のあきらめの気持ちで見ているのではないか。これが日本の現実、と受け入れつつある。この震災は本当に悲劇であったが、政治家がリーダーシップを示し、将来のビジョンを示す稀な絶好の機会でもあった。日本のトップのリーダーシップが嘆かわしいほど欠如しているが、それは日本の国民の民度が落ちているということの裏返しでもあるのではないか。まさに今回の大震災のように、日本の国民は政治や政治家に対し、まるで自分たちの力が及ばない天災のようなものだとあきらめてしまっているようだ。

 ―国民に、政治での当事者意識が感じられないということですか。

 パリー そもそも日本の国民は、リーダーへの期待度が著しく低いように思う。諸外国はリーダーに大いに期待するし、寛容度も低い。荒廃した政治を唯々諾々と受け入れ、許してきた選挙民の怠慢を象徴するのが、日本のリーダーの選出過程ではないか。自民党政権末期の三代の首相や民主党の鳩山、菅両首相が選出された過程を見ていると、国民不在の中、まるで「政治村」の談合の中でより多くの人間が納得できる妥当な落とし所を探し、首相への順番を決めているように見える。これではリーダーの資質の有無などは問題にならず、軽い首相が生まれるのも当然だ。結局、選挙民こそが日本の政治をダメにした張本人といえる。

 ―いまや国民は政治に無力感しか抱いていません。

 パリー 日本は表向き完全に機能している民主国家であり、立法機関も機能し、十分な情報をもった行政機構などすべての機能をもつ。選挙もメディアへも政治の束縛はない。だが、日本の国民は民主主義を使いこなしているとは到底いえない。大統領制の導入など、外国の政治システムを取り入れるアイデアも時に浮上するが、結果は同じだろう。問題は政治システムにあるのではなく、資質のない政治家と、そんな彼らを選び続ける国民の民度にこそあるからだ。一九九〇年代に薬害エイズ事件を解決して喝采を浴びた菅氏が、首相になって大きな失望を招いている姿を見ると、政治を取り巻く環境、すなわち国民レベルそのものが年々低下しているのを感じざるを得ない。

 ―政治を荒廃させた共犯者としてメディアの責任をどう考えますか。

 パリー メディアの質こそ国民レベルの反映でもあり、批判精神が欠如した日本のメディアは国民の姿勢を如実に反映している。政治家もメディアや国民を甘く見ており、何をやっても逃げ切ることができると高をくくっている。英国ではジャーナリストは権力の座にいる政治家や経営者を狼狽させることを義務だと思っており、調査報道によって、彼らがidiot(間抜け)であることを報道で示せれば成功となる。日本のメディアはとにかく受け身だ。

 ―日本の政治を少しでもマシにする方法はありますか。

 パリー 民主党は確かに大きな失望をもたらしたが、政権交代であっという間に変化が起こると思っていた国民もナイーブすぎる。国民自体の意識が変わらなければ、政治家の資質など変わるはずがない。長い歴史の中で形成された気質を変えるには相当な時間を要するが、結局は、その長く緩慢な変化を耐え忍び、あらゆる啓蒙活動を通じて民度の向上を図るしか手はない。

リチャード・ロイド・パリー(英タイムズ紙東京支局長)
1969年英マージーサイド州生まれ。オックスフォード大学卒業後、フリージャーナリストに。95年に来日。インディペンデント紙やタイムズ紙の東京特派員を務める。アフガニスタン、イラク、コソボなど27カ国での取材を経験。2005年に英国で特派員賞を受賞。


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