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連載

西風 364

暑苦しかった京都の夏
八木亜夫

2011年9月号

 


 京都五山の「送り火」は、夏の風物詩にはちがいないが、実際は暑苦しい行事だ。「大文字」の大の字の中心点がキラリと光って、たちまち巨大な炎の文字になるのは、遠見には涼しげだが、山に大量のまきを運び上げ、汗だくになって燃やす作業は、地獄の責め苦。見ているほうも、盆地・京都の蒸し暑さに、やがて浴衣が汗だくになってしまう。それでも、火が燃え尽きると、先祖の霊をあの世に見送った、と多くの人は感じる。その送り火が、ことしはとりわけ暑苦しかった。

 どうせなら、東日本大震災で、一本を残して津波になぎ倒された、岩手県陸前高田市の松原の松材に、復興の願いを書いてもらい、それを燃やして鎮魂の儀式にしてはどうか、という提案に、大文字保存会がとびついたことから、騒動が始まった。すると「放射性物質が心配だ」という声があがり、「そんなものを燃やすと、空中に舞い上がって水がめの琵琶湖まで汚染される。下流の大阪は、水も飲めなくなる」との激しい意見も。届いたまきを検査したところ、放射性物質は検出されなかったが、保存会は計画を中止、送り返されたまきは、現・・・