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連載

本に遇う 連載143

ジャーナリズムの不在
河谷史夫

2011年11月号

 


 かねて不思議に思っていたことだが、ジャーナリズムという言葉はどうして日本語に言い換えられなかったのだろう。海の向こうから様々の概念が流れ込んできたとき、明治の知識人は脳漿を絞って、例えばスピーチを演説、フィロソフィーは哲学と訳したというのに、ジャーナリズムまでは頭が回らなかったらしいのはなぜか。

 ニュースペーパーは「新聞」、マガジンは「雑誌」。しかしジャーナリズムは片仮名表記のままで、ジャーナリストも同じい。

 日本国語大辞典では、ジャーナリズムは「新聞、雑誌、ラジオ、テレビなど時事的な関心を主体とするマスコミュニケーションの媒体機関の総称。またその世界で行なわれる活動」、ジャーナリストは「ジャーナリズムの世界にかかわりをもつ記者、編集者、解説者などの総称」と説明されるが、今日なおこれを一言で表す用語はない。

 わたしは新聞記者のはしくれだったが、面談相手に「ジャーナリストですか」などと言われると何かしらむず痒さを覚え、危うく武田泰淳の書いた男のように「新聞社にいるからジ・・・