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連載

日本の科学アラカルト 連載25

幅広い普及に向けて着実に進む「燃料電池」研究

2012年9月号

「水素社会の到来」。一時期、燃料電池への期待が高まり、炭素から水素循環型社会へのドラスティックな変化がすぐにでも始まると喧伝された。実際には家庭用燃料電池システムが市販されているものの、輝かしい「水素社会」はいまだ訪れていない。ただ、当初の想定より歩みは遅いが、研究開発は確実に進み、実用化、普及の階段を上っている。化石燃料を外国に依存し、原子力発電所再稼働への見通しも明るくない日本では、特にその実現が期待される。

 一言で燃料電池といった場合、セル内部で水素と酸素を反応させて電気を得る。中学レベルで学習する水の電気分解を逆に辿った反応だ。この場合、水素が「燃料」に当たる。燃料電池が他の電池と異なる最大のポイントは、継続的に燃料を補充することで、電気容量の制限がなくなる点だ。

 分子科学研究所の唯美津木准教授と、高輝度光科学研究センターの宇留賀朋哉研究員らのグループは最近、燃料電池内部における触媒の機能を解析することに成功した。兵庫県の大型放射光施設SPring-8を使い、白金―コバルト合金触媒が、燃料電池の陽極(カソード)触媒として機能する仕・・・