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連載

本に遇う 連載155

読書録で人生を語る
河谷史夫

2012年11月号

「四十歳定年制」の提唱者もいるが、昔は五十五歳だった。今は六十歳。近く六十五歳になるだろう。退職とともに否応なく、勤め人は人生第二幕に入る。
 行く場所はなくなり、会う人はいなくなる。家にいるしかなく、することがない。だらだらと職場の延長にしがみついているのもみっともない。趣味に生きるか、奉仕の精神で活動するか、海外に出るか、陸沈するか。いずれ人は生きてきたようにしか生きられないのだから、自分の甲羅に合わせて老いていくほかはない。
「のらくらと暮らせるうちは、のらくらと暮らしたいと思うだけだ」と言ったのは朝日新聞きっての名記者だった門田勲だ。出たとこ勝負でやってきた新聞記者風情に老後の計画など立てられるはずがない。わたしも同断で、行き当たりばったりにやっている。
 ところがここに曽我文宣という用意周到な人がいて、驚いたことに、定年に十年も余した日から老後の明け暮れのことを考えた。そして若き日からの読書遍歴を土台に人生観を書き残すことにし、実行したというのである。
 一九四二年生まれ。東京大学工学部原子力工学科から理論物理学の大学院を経て東大原子核・・・