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連載

不運の名選手たち38

東 輝(スキージャンパー)選考に泣いた「大倉山男」 
中村計

2013年2月号

 眼下には、いつも以上に大きく札幌の街が広がっていた。
「二本とも、K点を越える視界でしたね」
 二〇〇七年一月二十八日、場所は札幌・大倉山ジャンプ競技場だった。スキージャンプNHK杯で、東輝は、一本目は一二二メートル、二本目は一二四・五メートルをそれぞれマーク。出場選手の中でただ一人、K点越えの大ジャンプをそろえ、優勝を飾った。

 条件は厳しかった。およそ一カ月後、大倉山では世界選手権が控えていた。そのため、世界基準にならい、助走スピードが出すぎないよう通常の国内大会よりもスタートゲートは低い位置に設定されていた。その上、ほぼ無風。それだけに技術の差がはっきりと出た試合でもあった。

 東の身長は一六六センチだ。ジャンプはルール上、身長が高ければ高いほど長いスキー板を使うことができる。浮力を得るためには板は長い方が有利だ。その中で小柄な東が勝ち抜くには、誰よりも技術を磨く必要があった。

 重心を低くし、やや前傾姿勢で、スタートを切ったら微動だにしない助走フォーム。東は、もともとアプローチスピードは速い・・・