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政治

安倍とメディアの醜悪な「蜜月」

官邸にひれ伏す新聞・テレビ

2013年5月号公開

 四月中旬から下旬にかけて新聞各社が実施した世論調査によると、安倍晋三政権の支持率は引き続き高水準を維持している。毎日新聞と産経新聞(フジテレビとの合同)は七〇%台から六〇%台後半にやや落ち込んだものの、読売新聞は七四%、日本経済新聞に至っては七六%と前月より七ポイント上昇した。第一次安倍政権以降の内閣は四カ月目になると急降下に入っていた。しかし、第二次安倍政権は長期政権を予感させるほどの安定感が出ている。

「アベノミクス」が支持され、TPP交渉参加を早々に決断し交渉参加各国の合意を取り付けられたことなど、政策で大きな失点はない。野党の体たらくにも助けられている。第一次政権で惨敗した六年前の参院選を「親の敵」と言って臨む七月の参院選も今のところは死角なしといえる。

 もっとも、安倍首相を助ける勢力の存在も忘れてはいけない。マスコミだ。

 第一次政権では安倍首相側と激しく対立してきた。第二次政権での安倍首相は、メディア側にさらに強硬な姿勢を示しているが、なぜかおとなしい。

単独インタビューで「懐柔」


 安倍首相の強硬姿勢の一つは、「ぶら下がり取材」を拒否したことだ。ぶら下がりの拒否は、実は菅直人氏が東日本大震災への対応を口実に始めたもので、後任の野田佳彦氏も踏襲していた。メディア側は当然ながら「発信不足」と反発した。菅、野田両氏がぶら下がりの代わりとなる「飴」を提供しなかったことで、メディアとの関係は悪化の一途をたどった。

 安倍首相は、ぶら下がりに代わる毎日の発信を、自身が開設したフェイスブックで行っている。NTT広報部の報道担当課長という経験がある世耕弘成官房副長官が、メディアを介在しなくても世界に直接発信できるとして提案した。とはいえ、これも一方的な発信でしかない。そこで、首相の側近である加藤勝信官房副長官や世耕氏が官邸内の日々の様子を番記者に伝えている。ぶら下がりがなくても首相の「思い」を何とか入手できるようにしているのだ。

 もう一つの強硬姿勢は、単独インタビューだ。これには今井尚哉秘書官がメディアとの「仲介役」となっている。経済産業省出身の今井氏は第一次政権でもメディア担当だったが、今回は政務秘書官として官邸全体を取り仕切る。

 単独取材は歴代政権も受けてはいたが、内閣記者会には、インタビューの内容を他社に遅滞なく知らせるという「暗黙のルール」があった。このルールは、皮肉にもメディア側が自ら葬り去った。

 きっかけをつくったのは読売新聞だ。安倍氏は首相に返り咲いた直後の昨年十二月二十八日に、憲法改正で一致する読売新聞の単独インタビューを受けた。今井氏があえて読売サイドに打診して実現した。本来ならば内閣記者会の他社は読売に抗議するはずなのに、今井の介在を知ると、逆に各社が単独取材を相次いで申し入れる事態になった。

 新聞に限ると、読売の次には、憲法などで首相と価値観が一致する産経で同月三十日、その後、東京・中日(今年一月九日)、日経(一月十日)と続き、父の故安倍晋太郎元外相が在籍していた毎日も一月二十五日に行った。民放ではワイドショーの出演が多い。ニュース番組よりも政治の話を切り出しにくいという安倍首相の計算もあるし、民放にとっても視聴率対策になるから損はないというのだ。

 読売にはまた、二度目のインタビューを行い、憲法改正の「工程表」を発表した。さらに、巨人軍の長嶋茂雄終身名誉監督と松井秀喜元選手への国民栄誉賞授賞もある。安倍首相が渡邉恒雄読売新聞グループ本社会長との「談合」で授賞を決めたとされる。授賞式はこどもの日の五月五日、東京ドームで開催。日本テレビは特番を計画、「安倍首相も巨人のユニホームを着て登場する」(日テレ関係者)と、早くも政治色たっぷりの異例の式になりそうだ。

 もっとも読売は、スクープを群馬の地方紙、上毛新聞にさらわれた。松井氏が「相談相手」としている上毛OBで作家の横山秀夫氏に「国民栄誉賞を受けるべきか」と相談、横山氏が上毛側にリークしたのではないかとされている。

朝日新聞とも「手打ち式」


 一方、「反安倍」の急先鋒だった朝日新聞は取り残された。朝日は憲法改正をはじめ政策も価値観も安倍首相とは「水と油」の関係にあり、第二次政権に対しても当初は対決姿勢で臨む方針だったという。しかし、朝日関係者によると、ここで誤算と不安が生じた。

 誤算は、いつの間にか朝日だけ単独インタビューがなく、既存メディアで浮いた存在になったことだ。内閣支持率が驚異的な数字を維持している。朝日でさえ内閣支持率は六〇%台にある。これまでのような「安倍批判」ができないことも誤算だった。
「安倍批判」をすれば、アベノミクス効果で上昇に転じた景気を悪化させ、朝日が景気回復の腰を折った「戦犯」と批判されかねないという不安も出てきた。

 社内対立も出た。社会部は「安倍批判を」と主張したが、政治部と経済部が抵抗。政治部長の曽我豪氏は麻生太郎副総理の側近記者として知られる。安倍首相の盟友である麻生氏との関係を考えると「安倍批判」は得策ではないとなるのは自然のことだ。

 二月七日夜、帝国ホテル内の中国料理店「北京」で木村伊量朝日新聞社長は安倍首相と会食に臨んだ。この場が事実上の「手打ち式」となり、二週間近く経過した同月二十日にようやく単独インタビューが実現した。ここで、安倍首相とメディアとの「蜜月」関係が完成したともいえるだろう。

 ちなみに朝日は現在、特別班を編成して「石原ファミリー叩き」を進めている。石原宏高衆院議員が昨年の衆院選で大手遊技機メーカー「ユニバーサルエンターテインメント」に支援要請し、同社社員に選挙運動をさせていたことが「公職選挙法違反(運動員買収)に問われる可能性が出てきた」という記事がそうだ。

 安倍首相と同様に憲法改正を主張し「朝日嫌い」で有名な石原慎太郎・日本維新の会共同代表とユニバーサルの岡田和生会長とのカジノをめぐる蜜月関係を暴こうというのだが、「安倍批判を封印する代わりのガス抜きでしかない」(朝日関係者)という。

 ただ、安倍首相とメディアの「蜜月」は長続きするとは限らない。第一次政権では、郵政民営化に反対した同僚議員の自民党復党をきっかけに支持率は急落した。第二次政権でも、些細な失策や側近の対立など政権運営の歯車が狂い始める可能性は十分ある。

 もっとも、政権のミスを待つのではなく、政策や政治姿勢を厳しく批評するのがメディアの務めである。政権をときには迎合し、あるときには徹底的に批判するという今の新聞のようなスタンスは、本来のメディアにあってはならないはずだ。


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