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政治

《政界スキャン》

分水嶺に立つ安倍

2013年8月号

 歴史には、世の中がどっちに転ぶかわからないような分水嶺がある、と言ったのはアーノルド・トインビーだった。マルクス主義的な歴史進化論、下部構造決定論に飽き足らない身からすれば、新鮮な響きがあった。

 安倍晋三政権が圧勝した参議院選挙後のこれからの三年というのは、まさに日本にとって大きな分水嶺だったと、後の歴史家に記録されるのではないか。

 安倍が好んで回顧するエピソードに、一九六〇年の日米安保改定時における祖父・岸信介の思い出がある。日本の国論が二分され、国会や私邸が「安保反対」のデモで埋め尽くされる中で、岸が悠揚かつ決然と国益と信じるものに殉じていく姿は、六歳の安倍にまぶしく映ったようだ。

 イフの世界ではあるが、あの時安保改定という政治ドラマがなかりせば、世の中どうなっていただろう。池田勇人の所得倍増政策が出てきたかどうか。佐藤栄作の沖縄返還はもっと遠かったであろう。その意味で岸は歴史の分水嶺にしかるべき仕事を成し遂げた、と言えるのではないか。

 その観点からすると、安倍は、岸以上の歴史の分水嶺・・・