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社会・文化

アラスカ「一瞬」の秋物語

山と紅葉と動物たちの「共演」

2013年10月号

「枯れる」ではなく「咲く」。  極北の「ラスト・フロンティア」、アラスカの植物たちが秋の深まりとともに見せる紅葉や黄葉は、そんな表現がぴったりだ。  アラスカの四季は、日本のように約三カ月ずつ均等にあるわけではない。五月中旬に遅い春が訪れたのもつかの間、六月になると夏に様変わり。五月下旬から七月は白夜だ。八月に入ると次第に夜の時間が長くなり、下旬には地域によって早くも降雪が記録される。それ以外の時期は、暗く長い冬に支配されている。  したがって秋は、半年以上にも及ぶ冬と、三カ月あるかないかの夏の間にぎゅっと凝縮されている。アラスカの秋は、長くても二週間ほど。それだけに日々の変化は、絵巻物のごとく動的で劇的だ。アラスカをこよなく愛した動物写真家、星野道夫によれば〈新緑のピークがたった一日のように、紅葉のピークもわずか一日〉(『旅をする木』)だという。  星野もそんなアラスカの秋に魅せられ、シャッターを切り、文章をしたためた。『長い旅の途上』から引用する。 〈秋の見事さにはただ言葉がない。八月も終わりになると、アラスカの原野は、ゆっくりとツンドラの紅いじゅうたんに・・・