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社会・文化

《日本のサンクチュアリ》人工妊娠中絶

年間二十万を超す「捨てられる命」

2014年3月号

「中絶がタブーである限り闇はなくならない」
 関東地方で複数の産婦人科医院を経営する開業医はこう指摘する。この医師は「必要な堕胎はある」としたうえで、日本人が人工妊娠中絶から目を背けてきた事実を見つめるべきだと語る。特に「出生前診断が手軽になる中で、議論の重要性は増している」と強調した。

 従来、ダウン症のような先天異常を出生前に診断するためには羊水検査が必須だったが、血液検査による簡便な手段が導入されるとともに、中絶という現実に直面する妊婦は今後増加し続けるだろう。「堕胎大国」である日本の現実を、検証すべき時がきている。

いまだに残る「闇堕胎」

「宗教的な社会背景は異なるが、中絶に関する議論と衝突を繰り返しつつ環境を整えようとしている米国は、日本に比べれば健全だ」
 前出の産婦人科開業医はこう指摘する。かつて我が国でも中絶の議論が盛り上がったことがある。一九七〇年代に出生率が徐々に下がり始め、将来の労働力人口の減少が懸念され始めた頃だ。日本政府は「当時は事実上の野放しだった」(医療ジャ・・・