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連載

本に遇う 連載 171

偽ベートーベンと記者
河谷 史夫

2014年3月号


 不二家、ミートホープ、白い恋人、赤福、船場吉兆、マクドナルド……と一瞥して、あああのことかと分かる人は、まだ認知症を懸念せずとも心配ない。

 七年前、世上を賑わした偽装騒動の火元である。材料をごまかしたり、産地を偽ったり、賞味期限を貼り直したり。商売に正直は無用のいんちき商法だった。清水寺の坊さんが揮毫する「今年の漢字」はその年、「偽」であった。

 花が咲くのに似て年年歳歳人のすることは同じで、去年も高級ホテルのレストランや有名百貨店で偽装表示の発覚が相次いだ。

 かつてアメリカに戦を仕掛け、三百十万人の国民を死に至らしめたときも、負けたのに「勝った」「勝った」と大本営は虚偽の発表を繰り返し、退却を転進、全滅を玉砕と言い換えた。「偽の国」に敗戦はなく終戦と称した。

「全聾の作曲家」に代作者がいたという騒ぎも、この国では驚くべきことでないかも知れない。

「全聾」で被爆二世の作曲家佐村河内守は、耳は聞こえないが絶対音感がある。「交響曲第一番・・・