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連載

本に遇う 連載 173

核と生命は共存できぬ
河谷 史夫

2014年5月号


 大震災後、「想定外」という用語で政治と原子力ムラの無責任と怠慢を擁護し、隠蔽する輩が多い。

 だが予言はあったのである。

 一九三五年生まれの詩人羽生康二が「いちばんおそれているのは原発事故である」と詩誌『いのちの籠』(二〇一一年二月二十五日発行)に述べていたのを、詩人で女性史研究家堀場清子は読んだ。
「日本には原子力発電所が五十以上ある。その中の一つでも大事故を起こしたら、日本の大部分が放射能汚染のために人が住めない土地になる。さらに心配なことに、日本は有数の地震国だ。万一どれかの原発の真下で大地震が起きたら、と考えるとぞっとする」

 堀場は三〇年生まれ。共同通信に九年いた。著書に『青鞜の時代』『禁じられた原爆体験』。夫鹿野政直との共著『高群逸枝』がある。

 羽生に共感したが、しかしわずか半月後の三月十一日、現実のことになるとは想像だにしなかった。もう少し先のことと勝手に思っていたのである。何たる愚かさ。堀場は出来した原発事故に怯えた。

「私は無力な老・・・