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連載

日本の科学アラカルト 47

失われた光を取り戻す 人工視覚システムの開発

2014年7月号

 一般に五感と呼ばれる、ヒトが外界の情報を認識する感覚機能。健常であれば意識することもなく使っている能力だが、事故や病気により能力が異常に低下したり失われれば、生活に重大な支障をきたす。どれも極めて高度な生体システムで処理されており、仮に失われてしまった場合、回復させることは容易ではない。  優劣をつけるのは難しいが、視覚や聴覚は他の感覚と比較した場合、損なわれたとき特に支障が大きい。視力聴力の低下が起きた場合の対処方法について、人類は古くから試行錯誤を続けてきた。視力低下ではメガネやコンタクトレンズを開発し、システムの一部ではあるが重要な役割を果たす網膜を移植する技術も完成している。  聴力低下の場合、ベートーベンも使っていたというパイプ状の補聴器から始まり、最新の小型機器まで発達は著しい。しかし、こうした機器でも対処できないほどに能力が損なわれた場合のために、「人工内耳」というデバイスも開発されている。一九七〇年代に米国で開発され、実用化されてから三十年以上が経過する。  一方で視覚が失われた場合の「人工眼」についての研究も取り組まれており、実現に向けて着実に進ん・・・