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連載

西風 403

広がる「なにわ長屋」の再生

2014年12月号

 大阪市内には、戦前から建つ木造建物が意外なほど多く、中心部を離れて少し歩けば下町情緒を残した街角が唐突に現れる。戦火をくぐり抜けたこうした建物には長屋造りのものが多いのが特徴だ。この「なにわ長屋」を保全、活用する動きが広がっている。

 長屋といっても江戸落語に登場するような裏長屋のイメージとは全く違う。大阪の長屋の多くは二階建てで、全戸に独立した門構えや前庭、裏庭がしつらえられている。標準的ななにわ長屋は、玄関となる土間も入れて、居間や仏間、客間など七間ほどを持つ。

 かつては、幹部役人や銀行の支店長などが住む、庶民には手の届かない高級賃貸住宅だった物件も多いという。当然和風建築だが、二階に洋風のバルコニーを備えたところもある。

 歴史的にみると、大正末期から昭和初期にかけて、大阪の人口が急増した時期に建てられた。

 長屋見直しの機運が盛り上がるひとつのきっかけとなったのが「寺西長屋」だ。地下鉄昭和町駅のほど近くに建つその長屋が改修されて再生したのである。この長屋は道路を挟んで向かいに住んでいる寺・・・