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政治

《土着権力の研究》第二十五代 田部長右衛門

名跡継いだ二十一世紀の「若様」

2016年4月号

 日本一の山林王―。林業が衰退した現在でもなお、この称号を冠するにふさわしいのが、奥出雲の田部家だ。古くは江戸時代にたたら製鉄を営み、比喩ではなく一帯の山林を保有し地元に君臨し続けてきた名家である。
 政財界に圧倒的な影響力を持ち、地元メディアをも支配下に収める。そうした意味で、田部家は典型的な土着権力者といえる。一方で、各地のこうした権力者が地元の利権を差配し、我田引水を繰り返すのと比較すると同家は少し趣が異なる。出雲地方で地元民から畏れをもって敬われつつ、静かに権勢を保ち続けているのだ。その田部家も二十一世紀に入り、否応なく時代の波に揉まれている。
 田部家の当主は代々「長右衛門」を名乗ることで知られている。昨年十一月、現在の当主である真孝氏が、二十五代長右衛門を襲名した。先代が一九九九年に死去して以降、十六年もの間空席だった名跡を三十六歳の当代がようやく継いだのだ。
「島根の天皇家」のようなもの
 先代が亡くなった当時、真孝氏は弱冠二十歳、まだ中央大学法学部の学生だった。その後、二〇〇二年にフジテレビに入社・・・