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メキシコ「麻薬戦争」は永遠に続く

「巨大消費地」米国がある限り

2016年8月号

 メキシコの麻薬戦争を描いた、ドン・ウィンズロウの小説『ザ・カルテル』(邦訳・角川文庫)が世界中で大ヒットし、麻薬戦争の凄惨さに新たな光をあてている。だが、著者自身が「現実はさらにひどい」と認めるように、現地の出来事は、この傑作さえ描き切れぬほど異様なのだ。「麻薬戦争を終わらせる」と公約したエンリケ・ペニャ・ニエト大統領の下で、何が起こっているのか。
地元民が英雄視する「ナルコ」
 英語の原作が昨年六月に発売された七カ月後。出版元には夢のような大事件が起きた。メキシコ最大の犯罪組織「シナロア・カルテル」の首領で、同国麻薬王である「エル・チャポ(ちび)」ことホアキン・グスマンが潜伏先で逮捕された。彼は小説の主人公、アダン・バレーラのモデルで、逮捕劇は一九九三年、二〇一四年に続いて三回目。国内最高の厳重警備下で収監されていたのに、二度(〇一年と一五年)も脱獄に成功。特に二度目は手下たちに一・五キロものトンネルを掘らせて、麻薬組織の底力を見せつけた。その男の再逮捕だから、小説が再注目された。
 小説の謝辞で、ウィンズロウ自身が「・・・