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連載

Book Reviewing Globe 389

レアルポリティークの本質

2016年10月号

 戦後、政治的に正しくない言葉とされたのは地政学だけではない。レアルポリティークもそれと同様、あるいはそれ以上に欧米ではネガティブな意味合いを持つことになった。それは、プロシアの軍国主義とドイツの帝国主義を生み出した元凶のように扱われた。
 レアルポリティーク、つまり力を信奉する権力政治と権力外交が、ドイツの非自由主義勢力を招来し、ビスマルクの「血と鉄」のナショナリズムを背にした権謀術策外交をもたらし、目的のためには手段を選ばないカルト的なものへと奇形化していった、と歴史家たちは断じた。
 もっとも、レアルポリティークはドイツの専売特許ではなかった。
 ミュンヘン和平という「宥和政策」をヒトラーと結んだとして、歴史的に悪名の高い英国のネヴィル・チェンバレン首相は、この取り決めを「平和の代償」としてのレアルポリティークとして割り切った。チェンバレンは、ミュンヘン和平は、平和を買うためのコストであり、それは十分支払う価値のある値段であると見なしたのである。しかし、平和は手に入れることができなかった。レアルポリティークによる英国外交は無残に崩壊した。
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