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連載

皇室の風 99

「摂政はダメなのよね」
岩井克己

2016年11月号

「摂政はダメなのよね」
平成六年一月二十一日、前侍従長徳川義寛が、こう断言したのに驚いた。
「陛下ご自身も摂政をなさって、いろいろ苦労されている。貞明皇后さまにもご苦労されていたようですし」
 二・二六事件直後から昭和天皇に半世紀も仕えた徳川に回顧談を聞き始めたばかりの頃だ。
「過去、摂政は聖徳太子とか三人しかいない。新嘗祭ひとつとっても、摂政はお供えまでしかできないんです。神とともにご自分も食べて穀霊と触れられるのは天皇だけ。大正さまの時にもお上は摂政としてそうやっておられた」
 徳川は、それ以上は詳しい説明はしてくれないまま、平成八年に急死してしまった。
 確かに歴史上、藤原氏などの「人臣摂政」は四十六人もいるが、皇族摂政は聖徳太子、中大兄皇子、草壁皇子の三例の後は一人も立てられていない。奈良時代の聖武天皇以降は通例化していた譲位を明治の旧皇室典範が否定して摂政のみを制度化し、大正十年に裕仁皇太子が就任したのだ。実に一千二百三十一年ぶりだった。
 心身衰弱していたとはいえ大正天皇は存命で在位しており、若年の摂政宮・・・