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政治

安倍農政改革が招く「食卓格差」

牛豚のエサ以下のコメを食う国民

2018年1月号

 正月を迎えると、段ボール箱ごと買った温州ミカンを、好きなだけ食べる―。こんな風景は消滅しかけている。「みかんの花咲く丘」の詩で有名な伊豆・宇佐美(静岡県伊東市)。かつては温州ミカンの大産地だったが、いまや廃園が目立つ。「青島みかん」に交じって、ところどころで袋掛けして丁寧に栽培されているのは「デコポン」だ。高級品の少量生産で所得を増やす経営戦略だろう。道路から離れた悪条件の急峻な場所はススキが繁り、景観はもの悲しい。
 戦後の食料危機を脱した一九六〇年代、農林省(当時)は食の多様化を見据えて果樹の生産を奨励した。全国のミカンの出荷量は全盛期の七〇年代半ばに年間約三百七十万トンに達する。しかし七〇年代から相次いだ、グレープフルーツ、オレンジなどの輸入自由化で、ミカン農家は減産に次ぐ減産を強いられ、全国の生産量は約七十八万トンに激減した。
 これにより地域の関連産業も疲弊し、人口流出の根本要因になった。例えば、かつてミカンの缶詰は日本の有力な輸出品であり、七〇年代には年間約八万トンも輸出していた。現在は逆に約八万トンを輸入しており、ミカンの缶詰産業は丸ごと消滅したのだ・・・

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