三万人のための情報誌 選択出版

書店では手に入らない、月刊総合情報誌会員だけが読める月間総合情報誌

WORLD

北方領土「二島返還」の罠

激変する「日米中ロ」の安全保障

2016年11月号特別リポート

 大英帝国時代、宰相を務めたパーマストンは「英国には永遠の敵もいなければ永遠の友もいない。あるのは国益だけだ」との言葉を後世に残した。対ロ外交に精通する日本政府関係者は、この遺訓を引用して「日本も例外ではない。トランプのような人物が大統領候補になる時代だ。いつか日米同盟が漂流すれば、新たな道を探らなければいけない」と語る。
 移ろう歴史に沿うように、安倍晋三首相は十二月十五日に地元の山口県長門市で予定するプーチン・ロシア大統領との会談で、北方領土問題に風穴を開け、日ロ関係の針を大きく動かす構えだ。思惑通りの展開になれば、日本を取り巻く安全保障環境は激変する。究極的には日ロの軍事協力の芽が生まれ、日米同盟にもすきま風が吹きかねない。その結果、米中が接近するシナリオも夢想と切り捨てられなくなる。日米中ロによる大国の力学のパラダイムシフトは、国際情勢の色彩も変容させかねないのだ。
「北方四島の返還を要求するのは当然だが、それでは物事が動かない。歯舞群島、色丹島を先に引き渡すなら、択捉島と国後島の扱いは百年後に話し合ってもいい」
 九月上旬、岸信夫外務副大臣は知人・・・