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社会・文化

日本版GPS 「準天頂衛星」に黄信号

NEC「大失態」で3000億円の無駄遣い

2016年11月号公開

 日本独自の衛星測位システムとして期待された「準天頂衛星システム(QZSS)」の完成に黄信号が灯っている。
「NECが開発を担当した地上系システムの開発が大幅に遅れているために、サービス提供のめどが立たなくなっている」
 某電機メーカー関係者はこう指摘する。このシステムは、今年九月末が納期だったにもかかわらず、いまだに開発途上段階というから呆れる。

技術者払底なのに受注

 QZSSの衛星「みちびき」一号機が打ち上げられたのは、二〇一〇年。試験機である一号機は現在も順調に飛行を続けており、地上に信号を送り続けている。
 QZSSの特徴は、「準天頂」という名前が示すとおり、日本のほぼ上空を飛ぶ点だ。米国のGPS衛星は、かなり斜めの地平線に近い位置を飛行している。GPSで測位するには最低三つの衛星から電波を受信する必要があるが、ビルの陰や山間部では信号を捕らえられず、測位できなくなる。QZSSはその弱点を克服できるシステムとして期待されているのだ。
 日本の上空を飛行するといっても、準天頂衛星は常にその場所にとどまっているわけではない。一日のうち約八時間は日本上空を飛行しているが、そのほかの十六時間は赤道付近や南半球のオーストラリア上空などを飛行している。日本上空を二十四時間カバーするためには、最低三機を打ち上げて三交代で飛行させる必要がある。
 現在、一八年からのサービス提供を目指して準備が進められているが、来年度以降順次打ち上げられる予定の「みちびき」二~四号機完成のめどはほぼ立っている。一号機と合わせて四機体制(一機は予備機)となる予定だが、すでに一号機が成功しているため、それほど難しい開発ではない。三菱電機は一二年に三機の製造を五百二億円で受注している。
 問題となっているのは冒頭述べた通り、地上系システムだ。みちびきの飛行軌道を常時監視するほか、国内外に管制局を設置し、それらをすべて連動させるための主管制局が必要となる。衛星からの信号データを常に分析、調整しなければ正確な位置測定はできないのだ。地上系システムがなければ、「衛星はただの宇宙のゴミ」(経済部記者)とまで言われる。
 やはり一二年にこの地上系システム開発を受注したのがNECだ。システム構築とその後十五年間の運用経費を含めて、一千百七十二億円もの巨費が投入された。
 正確には、受注したのは「準天頂衛星システムサービス」というNECなどが設立した特定目的会社(SPC)だ。QZSSは衛星システムとしては初めて民間委託(PFI)で運用される。これを請け負うのがこのSPCである。
「NECにやらせようというのがそもそもの間違いだった」
 前出電機メーカー関係者はこう嘆息する。九月中旬時点で、地上系システムの個々の機器は完成していたが、それらを接続した際の誤作動が除去できなかった。巨大システムでは個別の機器が完璧であっても、それらを接続して運転すると機器間の信号などが干渉して上手く作動しないことが往々にしてある。エンジニアが「機器間の悪ふざけ」と呼ぶこの現象を除去するのがシステム構築の根幹だ。「バグ取り」と呼ばれ、いわばシステム構築のイロハのイだ。
 ではなぜNECはそれができないのか。前出経済部記者が語る。
「この十年間のリストラで技術者が払底してしまった」
 NECの業績悪化は十年以上続いているが、この間に「同社は四万人近くの社員を切った」(同記者)。NECは、ほぼ機械的に入社年次でリストラを行ったため、その中には優秀なエンジニアも相当数含まれていた。どのようにバグを除去すればシステム誤作動がなくなるかは、ベテランエンジニアの勘に頼る部分が大きい。
 東京・府中のNEC事業場では現在、いたずらにシステムをいじり、完成から遠ざかるという泥沼にはまっている。実は「NEC側はシステムのスペックダウンや、更なる納期の延期を内閣府に求めている」(情報筋)。この期に及んでスペックダウンを求めるようでは、仮に低スペックで完成したとしても、システムへの信頼性は乏しい。
 そもそも「宇宙屋」の間ではNECの評価は低い。三菱重工業、日立製作所、IHIという三大メーカーと比較すると、システム構築を担当するNECは「杜撰な仕事をする」(前出情報筋)とされる。実は、今年三月にコントロール不能になったX線天文衛星「ひとみ」のお粗末な不具合も「NECによるシステムの誤作動だったという点で衆目は一致している」(同)。

責任逃れに終始するJAXA

 問題解決を妨げているのが、わが国の宇宙行政を担う宇宙航空研究開発機構(JAXA)の不在だ。QZSSは産業界からの要望で計画がスタートしたため、省庁の縄張りを外すために、内閣府の宇宙戦略推進事務局が担当している。一号機の開発や運用などはJAXAが担当したものの、不具合が頻発している現状には無関心でその対応には及び腰なのだ。
 八月三十日、自民党政調会の宇宙総合戦略小委員会にJAXAの山浦雄一理事が出席し、中長期戦略の説明を行った。その中では基幹ロケットH-3の開発や、宇宙監視については言及されたが、QZSSについては触れなかった。
 九月一日に、宇宙戦略推進事務局に「準天頂衛星戦略室」が設置され、監督強化に乗り出してはいるが、「内閣府がどれほど監督できるかは疑問」(前出電機メーカー関係者)だという。当のJAXAは戦略室に出向者を出しただけでお茶を濁し、責任を負う姿勢は皆無だ。
 JAXAは昨年、理化学研究所(理研)や産業技術総合研究所(産総研)と同じ「国立研究開発法人」に格上げされた。奥村直樹理事長は目下、内部向けに「特許と論文を出せ」と発破をかけている。QZSSは一号機の研究により論文や特許はある程度、出尽くしており、JAXAとしては力を入れる動機が乏しい。
 QZSSは運用の初期の間、GPSの補助、補強に使われる。その後は衛星七機体制まで拡大して、単独で測位サービスを提供する計画もある。しかし入り口でこれだけ躓いただけに、先行きは不安だ。自動運転や農地観測への応用が見込まれるQZSSの経済効果は、四兆円とも六兆円とも試算された。今になってみれば、「この試算自体が、衛星事業を拡大するために宇宙業界が水増ししたものではないか」(前出経済部記者)という疑問が湧いてくる。すでに四号機までの打ち上げとシステム構築だけで、三千億円以上の予算投入が決定している。このままでは血税がドブに捨てられる結果に終わりかねない。

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