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サウジの「カタール侵攻」はあるのか

狂気の沙汰もトランプしだい

2017年8月号

 二十七年前の夏(一九九〇年八月二日)、サダム・フセインがクウェートに侵攻するという暴挙に出たのは、それを米国が黙認するだろうとフセインが勝手に解釈したからではないかと考えられている。イラク軍の戦車が大挙して対クウェート国境に集結している最中にフセインに面会したグラスピー駐イラク米大使(当時)は、「アラブ同胞間の問題に米国は関与せず」と述べた。このため、フセインは「米軍動かず」と確信したというのだ。
 このような国家の存亡に関わる決定をするとき、常識的には多方面からの情報を収集して客観的、合理的な分析と判断をするだろう。しかし、それが強大な征服欲に駆られた独裁者によってなされるとき、ともすれば、あのときのように非合理的で身勝手な情勢分析や選択がなされることがあるのだ。人類の戦争の歴史は、そのような例に満ち溢れていると言っても過言ではない。
 サウジアラビアを中心とする四カ国によってカタール断交という名の「敵対的封鎖」が前触れなく始まったとき、地域の専門家の誰もが、クウェート侵攻の再来を恐れ、警告を発した。著名な評論家は「過去に同胞の国を侵略した政権がどうなったか、ア・・・