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連載

新・不養生のすすめ7

飲酒の御利益
大西 睦子

2017年10月号

「飲酒がもたらす健康への影響」という議論になると、たいてい憂鬱な気分になる。厚生労働省のホームページを開けば、「飲酒は、意識状態の変容を引き起こす。短時間内の多量飲酒による急性アルコール中毒は、死亡の原因」「慢性影響による肝疾患、脳卒中、がん等と関連」「長期にわたる多量飲酒と依存性、社会への適応力の低下、家族等周囲の人々にも深刻な影響」などの警告がある。まるでホラー映画を見ているような恐怖感に襲われる。
 もちろん、厚労省の警告は間違っていないが、飲み過ぎが体に悪いことは誰でも知っている。フェアな議論として、適量の飲酒がもたらす健康への利益も知るべきだと思う。
 まず、多くの読者が経験している飲酒による幸福感から話そう。二〇一二年のカリフォルニア大学のジェニファー・ミッチェル博士らの報告によると、飲酒は、幸福感をもたらす脳内神経伝達物質のエンドルフィンを放出する。また一六年の英ケント大学のベン・バアンバーグ・ガイガー博士らの報告は興味深い。博士らは、飲酒のもたらす幸せについて、二つの調査を用いて分析した。
 一つ目は、一九七〇年生まれの一万七千人を対象にし・・・