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経済

驕れる東京ガスに「包囲網」

「首都圏攻略」狙うライバルの合従連衡

2017年10月号

〈智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい〉
 夏目漱石の『草枕』の有名な冒頭の独白である。同作品に限らず、漱石の明治三十年代を舞台とした小説には、しばしば瓦斯灯が登場する。とりわけ、当時の東京・上野や銀座の瓦斯イルミネーションは“文明開化の灯り”であり、漱石が描く明治近代人の愛憎劇に臨場感を与えた。もちろん、それを事業化していたのは、渋沢栄一が一八八五(明治十八)年に設立した東京ガスである。
 約百三十年にわたって首都圏を金城湯池としてきたこの名門企業が今、電力・ガス自由化の中で守勢に立たされている。攻めるのは東京電力ホールディングス(HD)、JXTGエネルギー、大阪ガス、中部電力といったメジャープレーヤーばかり。これら中原に鹿を逐う有力四社に対し、まさしく中原にいる東ガスは一線を画し、“名誉ある孤立”を保ってきた。というより、名門企業の唯我独尊が「東ガス包囲網」の形成を招いたと言うべきだろう。
 しかし、そこに至るまでには、漱石が浮世の不如意を嘆いたように、&・・・